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第2回ビジネス交流会セミナー

マーケット主導型経営に向けて
 さて、ではマーケット主導型経営とは何かについて三つほどお話してみたいと思います。ここでいうマーケット主導型経営は要するに外、マーケットにいつも目を向けながら経営をしていくといったことです。ともすれば組織というのは内向きになりがちで、慣性として現状維持に傾きがちなんですが、マーケットに目を向けてみることによって、今日のお話のテーマでもある「マーケティングによるイノベーション」が見えてくると思います。
 一つ目は、さっきマーケティングの役割で「顧客のニーズの充足しながら製品を作っていく」と申し上げましたが、では顧客の本当のニーズはいったいどこにあるのでしょう。この時いつも障害になるのが業界の常識であったり、消費者自身の考えている常識であったりします。この常識というフィルターを通すことによって、実は本当の消費者のニーズが見えてこない。このフィルターをとっぱらうことによって、本当のニーズが見えてくるといったことがあります。
 コルゲート社というアメリカの練り歯磨きの会社を例にとってみましょう。コルゲートは消費者に「何故歯を磨きますか?」「いつ磨きますか?」といった二つの質問をしました。答えは「虫歯予防」と「朝起きた時と夜寝る前」でした。この答えの矛盾にコルゲートは気がつきました。虫歯予防だったら食事の後にすぐ磨くべきで、寝ている間だけ歯を清潔にしても意味がないからです。コルゲートの出した結論は「消費者は虫歯予防ではなく、一日の儀式として歯を磨くのだ」というものでした。コルゲートはそれまでの薬臭い歯磨きの味を変え、一日の儀式の演出にふさわしいように、ミント系の味の練り歯磨きを売り出し、やがて業界でナンバーワンになりました。この事例は、常識に隠されている、本当の消費者ニーズを探り当てることによって、その会社に飛躍的な成果がもたらされることがあるという好い例だと思います。
 二つ目は、本当のライバルは誰かということです。製品、事業、あるいは市場を、モノを中心に狭く捉えてしまう、その結果として将来的な潜在的競争の脅威とか、逆に市場チャンスを見逃してしまうことを「マーケティング近視眼」と呼んでいます。ハリウッド映画産業にその例を見ることができます。映画というモノ中心に考えると、映画業界のライバルは20世紀フォックスとかワーナーブラザーズ、コロンビアとかいった、それぞれの映画会社だと思われていたのですが、実はその強力なライバルは映画業界の外にいたんですね。テレビです。1960年代からアメリカの家庭に大量に普及し始めていたテレビが、エンターメントを楽しみたいというニーズから、映画産業の強力なライバルになっていたというわけです。これを見逃して、ハリウッド映画は一時的には危機に見舞われます。その後コッポラやルーカス、スピルバーグらが映画でなければできない世界を大スクリーンで表現していくというというテレビとの差別化を図り、ハリウッド映画は救われ、今日の隆盛をみているというわけですね。
 最近の例では写真フィルム業界です。いくら優れたフィルムや一眼レフカメラの技術を磨いても、デジタルカメラというまったく異質なエレクトロニクスの側から競争があると、一挙に手ごわいライバルが出現してしまう。フィルム式カメラでは出番のなかったソニーなども、デジタルカメラとなると出る幕が出てくる。実際、ソニーのデジタルカメラ「サイバーショット」ですか、非常に売れてるようです。
 「マーケティング近視眼」から得られる教訓は、モノからではなくニーズから見ると本当のライバルがどこからやってくるかが分かってくるということです。そうすると日本タイプライターやナガオカというレコード針の会社のように、そのマーケットと心中しなくても済むんですね。ニーズから捉えてマーケットに常にアンテナを張っていることで、本当のライバルがどこか、それに対してどう競争していくかといったことが初めて分かってくるんです。
 最後は「技術優位は競争優位を保障するのか」という点です。ここで大事なのは、誰が技術の優位性を評価するのかという事です。「どうしてこんな良い商品が売れないのかなあ」とぼやいている技術系ベンチャーの方がいらっしゃいますが、独りよがりではだめなんで、その技術が良いかどうかを判断するのはお客さんのほうなんですね。
 ビデオ業界での「ベータ」対「VHS」の話が分かりやすいと思います。技術的には「ベータ」のほうが優れていたという人がいますし、実際は放送関係などの業務用ビデオとしては「ベータ」のほうが圧倒的に強い。しかし家庭用ビデオでは「VHS」が逆転勝利を収めています。技術的に優れている「ベータ」を「VHS」が何故葬ることが出来たのかというと、これが実はマーケティングなんです。
 二つの製品の一番大きな違いはコンセプトにありました。ソニーの「ベータ」側がビデオをタイムシフト装置、好きな番組を録画しておいて後で観るという、時間をシフトさせる装置という具合に、いまから見ると狭い捉え方だったのに対し、ビクターの「VHS」側は「ビデオ文化の創造」や「ビデオライフの提案」という、より大きなコンセプトを打ち出していきました。当時はまだ95%の人たちが「ビデオとは何か」ということを知らなかったんですが、ビクターはそんな消費者に「ビデオを利用すればこんなに楽しい」「ビデオを使ったこんな新しい生活があります」ということを提案していったんですね。乱暴に言えば、消費者にとって技術はどうだっていい、技術で作られた製品とかサービスがどういう価値があるのかが大切なんです。独りよがりの技術の高さを売り込むのではなくて、その製品が買い手から見てどういう価値が与えられるがポイントになるんです。

 今日は「マーケティング・イノベーション」というテーマで、マーケティングという発想をベースに取り入れることでどういう新しい世界が広がっていくか、イノベーションが起こりうるかというお話をさせていただきました。なにか新しい気づきでもあればと思っております。ご静聴ありがとうございました。

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